ホタルカフェの名前を知ってくださる方の数が少しずつ増えてきて、いろいろなお客様に来ていただけるようになりました。本当に本当にラッキーなことに、ぼくたちは「ホタルカフェのことを大事にしてくれている」ことが表情や言葉、振る舞いから伝わってくるような、そんなたくさんの素敵なお客様たちに恵まれています。

庭の木々も、ホタルカフェと共に育ってきました。

初めていらっしゃるお客様からも、心が温かくなるような言葉をかけていただけることもあるし、そういうお客様が繰り返しホタルカフェに来てくれるようになったときは、本当にうれしい。だけど、いろいろなお客様に来ていただけるようになったことで、時には対応に困るようなことが起こることもあります。

例えば謂われのない理不尽なことをお客様に言われたとする。そのとき、ぼくたちがそれをどう捉えるか、それがホタルカフェの在り方に大きく関わっているのだと思います。どんなお客様であっても失礼のないように対応するのは当然のことだと思いますが、気持ちが落ち着いた後、今まさに起きたことをどう捉えるか。

理不尽なことを言われたら、誰だって腹が立つし、少なくとも良い気持ちはしない。客商売なんだからそんなこといちいち気にしてたらきりがない、という考え方もあるのかもしれません。

「そんな客はこっちからお断りだ！」とか「気にせず放っておけばいいよ。どうせもう来ないから」とか、そうやって気持ちを落ち着かせる選択肢もあるのだと思います。でもぼくはやっぱり、今起きたことの裏側にあるもの、目には見えないものを想像しようとする姿勢を失いたくない。

そのお客様はどういう経緯でホタルカフェを知ってくれたのか。今日はどういう気持ちでここまで来てくれたのか。もしかしたら今日は単純に気分が良くなかったのか。どんなことを期待してくれていたのか。それとも期待なんかなくて、ただ誰かに連れてこられただけなのか。事実がどうであれ、ほんの少しだけでも想像してみる。

結果的にそのお客様はもう二度と来ないかもしれないし、それはどうすることもできないのだけど、そのちょっとの想像力が「ホタルカフェがどう在り続けるか」ということに大きな違いを生み出すのだと信じています。

自分が今やっている仕事は、どんな形で人々の幸せに関わっているのだろうか。田んぼを見渡すデッキ席に座っているお客様は、自然の風に包まれながら、1週間の仕事の疲れを癒しているのだろうか。タルトやキッシュをお土産として受け取った人はどんな気持ちになるだろう。

売上をあげることだけでなく、ライバルに勝つことでもなく、自分の仕事がどうやって人の幸せに関わっているのか。それが仕事をする上で一番大切なことだと思っています。生活のため、家族を養うため、お金を稼がなければならないのは事実だけど、そのためだけに働いていないか。競争や出世や自己顕示欲のために、結果的にその大切な家族が幸せに暮らしていける世の中、人が人を思いやることのできる世の中を壊していく方向に進んでいないか。

向上心はとても大切だし、技術を磨くこと、知識を蓄えること、良いモノ・良いサービスを生み出したいという気持ちは全ての仕事において必要なこと。でもいったい何のために仕事をしているのか。それはやっぱりいろいろな意味で、世の中の誰かの暮らしの中に幸せな瞬間を創り出すため、なのだと思います。（もちろんやりたいからやっている、という人もたくさんいるけど、本当に情熱をもってやっている人は、もうそれだけで誰かをインスパイアして、幸せな気持ちにしてくれるのではないでしょうか。）

この世の中を形作っているたくさんの仕事があって、それぞれの仕事に従事している全ての人が、少しだけでもそんなことに想いをめぐらせながら日々の仕事に向かうことができたなら、きっと世の中はもっと優しく、温かいものになるのかもしれません。

売れればいい、美味しければいい、人気の店になればいい、文句があるなら来なければいい、ではなくて、少しだけ立ち止まって想像してみる。タルトやキッシュやコーヒーが、誰かの日常のほんのひとときを、ちょっぴり豊かにしている光景を。客席でひとり静かな時間を過ごしている人の穏やかな表情を。家族で楽しく笑い合う姿を。そして険しい顔をしていたあの人が、寂しそうな表情をしていたあの人が、笑顔でいるときのことを一瞬でもいいから頭の中に思い描いてみる。そうやって人と仕事に向き合い続けていく、それがホタルカフェがホタルカフェであり続けるために忘れてはならないこと。

2015年の宵待ちホタルも今週末で無事終了です。今年もたくさんのお客様にご参加いただき、本当にありがとうございました。翌日6月22日の月曜日の営業を終えたら、いつもより少し長いお休みに入ります。6月の最終週、7月の第1週と第2週の計3週末お休みをいただいて、7月18日の土曜日から通常営業を再開いたします。