飲食店でのバイトで学んだこと

昨年の春から秋にかけて半年ほど、本業と並行して都内の某飲食店でアルバイトをしていたことがあります。以前から「飲食店で働いてみたい」と思っていたので、ほぼ完全な初心者ながらなんとか採用してもらい、晴れてオープニングスタッフとしてキッチンで働けることに。アルバイトとはいえ、その半年で学べたことが実はたくさんありました。

衛生的なこと、食材の保存、後片付けや掃除の仕方などなど、当然のことながら実務に関しては今まで知らなかったことばかり。そして調理や仕込みに関しては、直接お客様の口に入るものを作るということはどういうことか、技術的なことだけではなく精神面や考え方という点で、ぼくなりに吸収することができたと思っています。今までその道でがんばってきた人たちに、技術で並ぼうなどという気はありませんでしたが、できる限り丁寧に、心を込めて、そしてできればすばやく、調理をしたり仕込みをしたり。

そして、そのお店で学べたことは、何も実務的なことだけではありません。

ぼくは社会に出てから10年以上、仕事の時間のほとんどをコンピュータの画面の前で過ごしてきました。社内のミーティングや顧客との打ち合わせはあっても、それ以外の時間はひとりでモニタとにらめっこです。ニュージーランドで勤めていた現地の会社では、同じオフィスにいる同僚と直接会話するよりも画面上のチャットでやりとりすることが多かったように思います。ちょっと席を立って周りを見渡せば、みんなの顔が見えるのに、そして数メートルも歩けば、直接会話ができるのに。

そんな環境で仕事をしてきたぼくにとって、その飲食店はとても新鮮な職場でした。ひとまわりも若い学生の子たちもいれば、経験豊かなシェフもいる。そして彼らと面と向かって話しながら、刻々と変わっていくお店の状況に対応していくのです。

ぼくがそのお店で一番大切にしたことは、同僚とのコミュニケーション。技術的には最後まで未熟だったと思うけど、飲食店のようにつねに状況が変わるなかでスムーズに仕事を進めていくには、一緒に働く仲間たちと気持ちよくやりとりできることが、ものすごく大切に感じたのです。

誰にでも、ちょっと虫の居所が悪いとか、気分が乗らなくてやる気がでないときがあります。そんなとき、そういう人を相手に上手くコミュニケーションをとるのはちょっと難しいもの。でも、その人のお店の中での立場とか、置かれた状況とか、もしかしたら家庭の事情とか、ぼくには到底知り得ない悩みや苦しみを抱えているかもしれない、と想像すればこちらからやさしく丁寧に接することができる。

そしてどんな人でも、ぼくには見えていないだけで必ず素晴らしい一面を持っていて、それは欠点と思われている部分の裏側に隠れていることもあるけど、それを探し出してそれとなく伝えることができると、ぼくとその人の間に流れる空気は少しだけ軽やかになる気がしています。もちろん無理矢理おだてるという意味ではなくて、本当に素晴らしいと思うところを探さないといけないのだけど。でもいつも気にしていれば必ず見つかるものなんだなあ、って本当にそう実感しました。

これから何をしていくにしても、最後は必ず「人と人」。半年という短い期間だったけど、そんなとても大切なことを改めて気づかせてくれた職場と全ての同僚に、心から「ありがとう」と言いたいと思います。

コメントをどうぞ